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子どものための哲学教育研究所  Japanese Institute of Philosophical Education for Children
 

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  2010年6月14日~
土屋陽介
 ハワイp4cスタディーズツアー報告(連載コラム) 
              

   目次

    1    ワイキキ小学校におけるp4c授業
    1.1  4年生のクラスでのp4c
    1.2  6年生のクラスでのp4c
    1.3  2年生のクラスでのp4c
    1.4  ワイキキ小学校の先生方との意見交換会
    2    カイルア高校におけるp4c授業
    2.1  1年生と3年生のクラスでのp4c
    2.2  カイルア高校の先生方との意見交換会

1  ワイキキ小学校におけるp4c授業

 ハワイでp4cを正規の授業を取り入れている学校は複数校存在するが、その中でも最も盛んに行われているのがワイキキ小学校である。ワイキキビーチのほど近く、ホノルル動物園の裏手に位置するこの小学校では、「思慮深くあれ(Be Mindfulness!)」という同校の教育目標(校則!)のもとで、ほとんど全ての先生が何らかの形でp4cのクラスを開講している 。校長のボニー・テイバー先生も、p4cにたいへん造詣が深い方でいらっしゃったが、とはいえ、校長の指示のもと全教員が一丸となってp4cに取り組んでいるというわけではなく、自分のクラスにp4cを取り入れるかどうかはあくまでも個々の先生の裁量に任されているそうだ。p4cを行っている先生方の背景も多様で、ハワイ大学のジャクソン博士のゼミでp4cの方法論を専門的に学んできたという先生もいれば(後に登場するローレンス先生はそのようであった)、そうした先生からp4cのやり方を学んで、自分のクラスにもp4cを取り入れて実践している先生もいた(後に登場するバッツ先生はそのようであった)。

 われわれは、2月10日にホノルル小学校を訪問し、午前中に4年生・6年生・2年生 の三つのクラスでp4cに参加した。また、午後からはテイバー校長先生のお計らいで、ワイキキ小学校の全先生方に集まっていただいて、一時間ほど貴重な意見交換の会を催していただいた。ワイキキ小学校の先生方一同に改めて感謝の意を表しつつ、その模様を報告したい。

 参考リンク:Welcome To Waikiki Elementary School (英語)

1.1  4年生のクラスでのp4c

 バッツ先生の4年生の教室に足を踏み入れたとたん、日本語のしゃべれる何人かの女子生徒からお茶と貝殻のレイによる歓迎を受け、われわれのスタディーズツアーはスタートした 。このクラスで行われたp4cについては、ハワイアン・スタイルのp4cとはどのようなものかを追体験していただくためにも、できる限り細部にわたって再現してみることにしたい。

 まず、p4cをはじめるための準備として、机が後ろに下げられ全生徒がいすを丸く並べ、「p4cサークル」と呼ばれる円陣が教室の中に作られた(上記写真を参照)。次いで、コミュニティ・ボールと呼ばれる毛糸の玉が用意された。ハワイのp4cにおいてコミュニティ・ボールはさまざまな重要な意味を担っているが、さしあたっては、発言のたびごとにコミュニティ・ボールを渡し会い(投げ合い)、ボールをもっている者のみが発言が許される(ボールをもっていない者は、ボールをもっている者の発言をよく聞いていなければならない)というのが、ハワイにおけるp4cの最も重要かつ基本的なルールであった。

 今回はわれわれビジターがいる特別な状況なので、自己紹介を兼ねて自分の名前といちばん好きなことをみんなに紹介するところからp4cは始まった。この提案をしたのは、われわれとともにp4cに参加したジャクソン博士であった。われわれも含めてサークルの中の参加者全員が順々にボールを渡し自己紹介をすませ―――ただし中には、自分は答えず黙って隣の子にボールをパスする子も何人か見られた。このように、ハワイのp4cでは、答えたくない質問には答えない自由、p4cの対話に参加しない自由も保証しようとしているようであった―――、さらにわれわれビジターに対する質問の時間が少しだけ設けられた後に、それでは今日は何についてみんなで話をしようかという段になった。最初バッツ先生は、クエスチョン・ボックス―――話題が出ないときのために、生徒が考えた「問い」を書いた紙がたくさん入っている箱。手を突っ込んで引き当てた紙に書かれている問いについてみんなで対話することになる―――を使うことを提案したが、生徒の何人かが反対したため、クエスチョン・ボックスを使うかどうかの多数決を取り、反対多数でクエスチョン・ボックスの使用は却下された。代わりに、今日話し合いたい話題を生徒から挙手で募り、その結果、生徒が挙げた以下の問いが本日のトピックの候補となった。

  ・どの教科がいちばん好きか?
  ・あなたの趣味は何か?
  ・あなたはどのスポーツが好きか?
  ・大きくなって何でもできるようになったら何をするか?
  ・いちばんおもしろいジョークは何か?
  ・学校に行くのとテレビを見るのはどちらが好きか?
  ・幽霊について
  ・今まで見た夢の中でいちばんひどい悪夢は何か?

そして、以上の候補の中から多数決で徐々に問いを絞り込んでいく手順を経て、最終的に「今まで見た夢の中でいちばんひどい悪夢は何か?」が本日のトピックとして採用された。このことからもわかるように、ハワイの(とりわけワイキキ小学校における)p4cでは、対話のトピックを決めるまでの手続きがかなり厳密で、できる限り生徒全員の意見を民主的に反映するように本日の対話の課題を決めていたのが印象的であった。後述する6年生のクラスにおいてもそうだが、その日のトピックが決まる時点で、授業時間の半分以上が経過しているといったようなペースであった(ただしこの日は、われわれが入ったことによる自己紹介の時間などが設けられたので、ふだんはもう少し早い時点でトピックの決定がなされて対話の時間も十分に確保されているのかもしれない)。また、先生があらかじめ決めておいた話題の候補を生徒に提示するようなこともなく、生徒自身が問題にしたいこと(のみ)から対話の課題を決めることも徹底されていた。これはおそらく、子ども自身が本当に問題を感じている場所から哲学を始めるという(特にハワイの)p4cの一般的理念に基づいているように思われるが、一方でこのことによって、p4cで扱われる話題がいわゆる「哲学的な」トピックになることはかなり少ないのではないか、むしろ上記のような比較的日常的な話題について対話するケースが多いのではないだろうか、という印象を受けた。

 いよいよ「今まで見た夢の中でいちばんひどい悪夢は何か?」についての生徒同士の対話が始まった。生徒の発言は活発で、4~5人の生徒が矢継ぎ早に自分の見た悪夢について紹介を始めた。そんな中、バッツ先生は、ほかの生徒の発言を聞いていなかった一人の生徒を密かに呼びつけ、こっそりと、しかし非常に険しい顔で注意を与えた後で、その子をp4cサークルの外に追放した。この生徒はその後、授業が終了するまで一人教室の隅で本を読みながら過ごすことを余儀なくされ、サークルの中での対話に戻ることは許されなかった。対話における最低限のルールを守らず、秩序を乱す恐れのある生徒に対しては、教師が毅然とした(日本人の感覚からするとかなり厳しい)態度を示すことによって対話コミュニティの安全性を確保している様子が垣間見られた(話を聞かない生徒に対する同様の措置は、後述する2年生のクラスにおいてもなされていた)。

 さて、生徒同士の発言はしばらく続いたものの、個人的な悪夢の体験談の報告に終始して、議論はそれ以上深まっていかないように見えた。すると、そうした様子を見計らって、ジャクソン博士が自分の見た二つの悪夢について語り始めた(もちろんジャクソン博士もp4cのルールに則り、挙手してボールを受け取ってから発言を始めた)。一つは彼が子どもの頃に見たという、怪物のようなゴリラに追いかけ回される夢についてであり、もう一つは、彼がたまたま昨晩見たという夢―――20分後に出発する飛行機に乗らなければならないのに、旅行の身支度ができておらず、スーツケースに下着を放り込んで慌てて空港に駆けつけたら、なぜかたくさんの人が自分に頼み事をしてきてパニックに陥った、という夢―――についてであった。身振り手振りのオーバーアクションを交えたジャクソン博士の話に、子どもたちは大喜びであった。ひとしきり夢の話を終えると、さて、自分の見たこうした悪夢には何らかのメッセージが隠されているのかもしれないね、とジャクソン博士は続けた。たとえば、「何かから逃げ出したい」とか、「プレッシャーを強く受けすぎているので少しリラックスした方がよい」というような、そういうメッセージを私たちは夢を通して与えられるのかもしれない。だとしたら、みんなが見た悪夢にはいったいどんなメッセージが隠れているんだろう?―――この発問によって議論を一歩だけ前に進めて、ジャクソン博士は生徒にボールを投げ返した。

 以上のジャクソン博士の発言が、それまでの生徒同士の対話の流れを変え、議論の質を深めるための誘導的な介入であることは明からであった。実際この後の対話は、ジャクソン博士の投げかけた問いを受けて、これまで話題に上った悪夢にはどんなメッセージが含まれているのかについての反省的考察が続いた。しかし残念ながら、その考察を十分に行うにしても、そこからさらに別の論点を提示して議論をもう一段深めるにしても、時間があまりにも少なすぎた。数人の生徒が自分の考えを発言しているうちに授業時間を超えてしまい、最後は少し慌ただしく対話の自己評価の時間に移っていった。

 ハワイのp4cの大きな特徴の一つとして、p4cの終了時に必ず自己評価の時間を設け、その日の対話について「よい・ふつう・悪い」の三段階で生徒自身に判定させるということがある。この日ジャクソン博士が生徒に投げかけたのは、以下の5つの自己評価のための問いであった。

  ・自分はどれくらい参加できましたか?
  ・他の人の話をちゃんと聞けましたか?
  ・安心して話ができましたか?
  ・今日の話題はおもしろかったですか?
  ・何か新しいことを学べましたか?

生徒の自己評価が終わり、バッツ先生がまとめの言葉を述べて、この日のp4cは終了した。われわれとしては、ビジターに対する自己紹介の時間を取らなければ、ここからもう少し発展した対話の現場に居合わせられたかもしれなかったので、少し残念な気持ちを抱いて教室を後にすることになった。

 以上、われわれが初めて参加したp4cの様子をできる限り詳細にわたって再現してみた。このクラスのp4cに参加して私が特に印象に残った点をもう一度まとめておくと、

  (1)対話のトピックは必ず生徒自身に挙げさせる
  (2)対話のトピックを決めるのにかなりの時間をかけ、生徒全員の意見ができる限り反映されるように民主的
  な手続き(多数決)に従って対話のトピックを決める
  (3)対話コミュニティの安全性を脅かす生徒に対しては厳しい態度を取り、場合によっては対話への参加を制
  限する
  (4)生徒同士の対話が停滞している際には、時としてファシリテーターが積極的に介入して議論を誘導する(
  議論を深める)

以上の四点である。これらはハワイで見た他のクラスにおけるp4cにおいてもおおむね共通している要素であった。

   
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